ひととき、この冬は暖かめなのではと感じていたものの、最近のデリーはかなり冷え込む。
停電も多い。私の住んでいるところでは、毎日、朝晩必ず電気が落ちるので、シャワーの時間を考慮しておかないと遅刻しかねない。そして、ネットも一緒に落ちてしまう事も多い。
寒い時期の辛抱である。
今日は、夕方5時からのインタビュー番組にバッバルさんが生出演することになった。
私はスタジオで、サーバントとエンジニアのグルプリートと、時間に合わせてテレビの前に座った。
スタジオのテレビはきちんとアンテナにつながれていない。
本体付属のアンテナの角度を変えつつ、見える場所をさがしていく。
しかし、映像同様、音声もさっぱり入ってこない。
サーバントは普段からやっている様々な手で調節していくが、あまりに原始的なので、
私は焦れったくてたまらない。
そして次なる手...
サーバントが台所からワイヤーを持ってきた。
彼らがこしらえたというワイヤーの先には、大きな釘が付いていてワイヤーでグルグルと巻かれている。ワイヤーを窓越しに近づけ、電波を拾うらしい。
まるで、理科の実験を見ているようだ。
しかし、映りはあまりよくない。たまりかねたサーバントはテレビの後ろのプラグらしきものを指で押さえた、一度は軽く感電していたが、テレビの映りも音声も何とか。
この方法が一番いいようだ。気の毒なサーバント、ずっとプラグを押さえ続けている...。
いよいよ、バッバルさん登場。今回は一人で、ハーモニウムとともに出演。
男女2人のアナウンサーからのインタビューと、短い曲を3曲披露した。
その中の2曲は、今私と一緒に作っているガーリブの曲だ。
もうすぐリリースするということ、そして私のことも紹介してくれていた。
しかし、私はちょっとドキッとした。
というのも、バッバルさんはスタジオを出かける時の恰好そのまま、まさにオーバーにマフラー姿。
インド全土に放映される番組である上、同じ場所にいるアナウンサーは軽装、女性の方は半袖のサリーである。 チグハグである、せめて、オーバーとマフラーは脱ぐべきではないのか...。
しかし、そんなこと気にもしていないんだろうな、バッバルさん。
いつものようにカメラに向かって、時折スマイルを織り交ぜながら一生懸命に訴え続ける。
その後、バッバルさんはデリー大学(DU)に駆けつける。
私も突然「現地集合!」との連絡を受け、慌ててデリー大学へと向かう。
以前紹介したこともある、インドのフルートこと、バーンスリー奏者ハリプラサード・チョウラシアの演奏がデリー大学内である。
名前は難しいけど、この人は世界的にも超有名、またバッバルさんとも友達らしい。
今日の公演ではもう一人、女性歌手も公演する。すでに公演自体は始まっていた時間だったが、バッバルさんはチョウラシア氏から後半の演奏と聞いていたそうで、それにはちょうど間に合いそうだ。
しかし、会場へ着いてみたら、順番が逆になっていて、チョウラシア氏の演奏が先。
それも最後の最後、拍手の最中であった。
どうも早く帰りたいチョウラシア氏の希望で順番が逆になったらしい。
バッバルさんは、チョウラシア氏が可能であれば、公演後に食事にでも誘いたいと言っていたが、時間変更の連絡までは特になかったようだ。 本当にこの二人は友達同士なのだろうか?
公演後、大勢のマスコミに取り囲まれ、その表情は時々怒っているのでは? とも思わせ、ますます貫禄を感じさせるチョウラシア氏。
バッバルさんを見つけると、笑顔も見せてくれて少し安心したが、二人の様子を見ているとどこまで親密な関係なのか疑問が残った。
チョウラシア氏は演奏直後でもあるし、マスコミがとにかく押し寄せている。
そんな状況の中だからだろうか? 知名度の高さがそうさせているのか?
バッバルさんのチョウラシア氏を思う気持ちと、相手の気持ちは微妙にずれているようにも見受けられた。
それにしても、インドのマスコミ関係はインド人気質丸出しで、押しが強い。
しかし、それよりも上手なのはバッバルさんである。 さっきのテレビ出演のまるで延長かと思わせるほど、自分の世界へとグングンと引っ張る、訴える。
クラシック音楽について質問した側のアナウンサーも、仕事を忘れたかのように長時間マイクを向けたまま聞き入り、感心しきりである。
どう転んでも一聴衆の感想に終わらない説得力。
と言いますか〜、そもそも我々は演奏も聴いていないのだから...。
私の目には、一応これはチョウラシア氏がメインのインタビューだからもう少しバッバルさん控え目でいいのでは?とも感じたが、バッバルさんのすごいのは、何事にも真正直に真剣に取り組みまっすぐな点。
更に、その中にもチョウラシア氏への尊敬の言葉をうまく織り込む。これでいいのかもしれないな、私が変に気を使い過ぎなのかも...。
ちなみに、バッバルさんにちょこっと聞いてみた。本心がわからなかったので...。
「今日のテレビ良かったです。写真撮りました。2曲もガーリブ歌いましたね。ところで、
オーバーとマフラーの、この恰好でしたね」
「冬だから...」
「はぁ、でも隣の女性は半袖のサリーで...」
「あの人は頭がおかしい。冬なのに...」
まっ、それでいいのかも...。
とにもかくにも、演奏は聴けなかった。数日前から「ayako、録音しよう」とバッバルさんに言われ、電池を充電し、しぶしぶMDを持ってきたわけだがそれも使わずじまい。正直ホッとした。
公演で録音するのは本当はいけないのでは? 落ち着いて聴けないし本来はやりたくない。
それにしても、寒い夜。 昨年もデリー大学での同じSPIC MARCAYシリーズの公演に来たが、とっても寒かったことを思い出す。
この寒さにピッタリなもの、それはチキンスープ!である。 Let's Go!!
最近教えてもらったチキンスープのあるお店は、北デリーにあって、更にこのチキンスープは冬の間だけしか味わえないそうだ。
これがまた美味い!! 濃厚な鶏ガラスープ、そして入っているチキンが柔らかく、毎日でも通いたくなるほど忘れられない味である。体に悪い物が一切入っていないのも魅力的。
ここのオーナーもバッバルさんのお友達である。西デリー等にも何店舗か持っているそうで、
この外で食するタイプの他に、この隣には同じお店のレストラン部門もある。
ピンク色のターバンの人がオーナー。
他にもチキン、マトンを中心としたメニューほか、ベジタリアン用のメニューもあり、カレーとはまた違うインド料理のひとつである。
あまり考えないで撮った写真なので、食べかけですが、料理はこんな感じ...。
左下にあるのがチキンスープ。
右皿中央のチキンもジューシーで美味しい。
バッバルさんは、このオーナーと、日本でこの手のインド料理のフェスティバルのような物を開いたら、日本人に喜ばれないか?と聞いてきた。
う〜ん、どうなんだろう? ここで食べているからとっても美味しい。日本は日本でまた美味しいものたくさんあるし、こだわりのラーメン文化もあるので、この手のスープに関してはかなり舌はこえているだろうし、チキンにしても焼き鳥もうまいしな〜...。
それ以上に、しばらくインドにいるので、自分自身の味覚に自信が無い。
日本人の友達が旅行に来たら、ここへ連れてきたい。試しに食べてみてもらいたい。
今のところは、食べ終わった先から、また食べたくなる味である。
外なので、せっかくスープで温まっても、長居はできない。
家まで温かさが持続してくれたらいいのだがと思いつつ、早めに切り上げた。
家に戻ってしばらくしたら、バッバルさんから電話があった。
「ayako、私の携帯電話を知らないか?」
私は今日は一度も携帯を預かっていなかった。そういえば、デリー大学からの帰り際、車の近くでデリー大学の関係者と会って電話番号を交換した。その時、バッバルさんは携帯を持っていた。
そこから車まではほんの数メートルだったが、車の中にも、ポケットの中にも、どこにも見当たらないらしい。必ず何かが起こる日々である。
翌日、グルプリートが言うには、バッバルさんは携帯をなくしたのは1度や2度ではないそうだ。
それもその携帯は、娘さんが新婚旅行にドヴァイに行った際に買ってきたもの。
そしてそこには何百という人の連絡先が入っている。
バッバルさんは、携帯がない事に気づいてから、寒い中、再び大学、そしてチキンスープの店へも探しに行ったらしいが出てこないのでかなり落胆気味。
今後の仕事の進展にもあまり影響が出ないといいのだが...。